Deep learning

ディープラーニングによる画像解析

「人が好き」は強みになる、人工知能時代に活躍できるエンジニア像とは(後編)

囲碁で韓国のイ・セドル九段を打ち負かした「AlphaGo」、日経「星新一賞」の一次審査を通過した「きまぐれ人工知能プロジェクト作家ですのよ」など、話題に事欠かない“人工知能”。その技術は日進月歩で高度化しているように思え、近い将来、ビジネスの現場においては高付加価値の仕事も担ってくれるようになるのでは、との期待感が高まります。

すでにリクルートでは人工知能技術の実用化プロジェクトが進行中。読者も使ったことがあるであろうWebサービスの新機能にも活かされ、現場ではワークフローの大幅な効率化が実現されているといいます。

前回に引き続き、実用化プロジェクトのディレクターを務める西條晃平さんにお話を聞きました。
今回は、人工知能の技術やソフトウェアが社会に広く浸透したとき、それでも良いサービスを生み出せる技術者になるためには何が求められるのかがテーマです。

聞き手/構成:岡徳之(Livit) 編集/写真:小川楓太(NEWPEACE Inc.)

良いサービスを生み出せる人とそうでない人、何で決まるか

—— 前編の最後で、「近い将来、人工知能の技術やソフトウェアがコモディティ化したとしても、使われるサービスとそうでないサービス、使われるサービスを生み出せる人とそうでない人に分かれてくる」とおっしゃっていました。その差を生み出すものは何でしょうか。

西條 ひとつは、「どのようなデータをもっているか」です。例えば、書店では同じ大学向けの問題集がいろんな出版社によって売られていますが、それぞれに載っている練習問題は異なります。なぜなら、参照する過去問など各出版社が扱っているデータが異なるからです。
このことは、ホテル予約サイト『じゃらんnet』のようなサービスにも当てはまります。ユーザーの趣味嗜好に関するデータだけ参照するのか、それともサイトでの行動履歴も参照するのか、そもそもそのようなデータをもっているのか。それによって、サービスが提供する機能や体験、価値に差が生まれてくるでしょう。
もしもデータがその差を生み出すのだとすれば、複数のサービスを運営していることが強みになります。なぜなら、例えば、「『じゃらんnet』を使ってホテルを予約しているある女性は、『ホットペッパービューティー』でこのネイルサロンを予約している」のように、旅行だけでも美容だけでもない、より多角的な観点に立ったユーザーのデータを検証できるからです。そしてそれは、なかなか手に入りにくい。

—— その他に技術者の差を生み出すものは何かありますか。

西條 もうひとつは、「データがもつ意味に気づけるか」です。いくらユーザーに関するデータを大量にもっていたとしても、それをなんとなくコンピュータに入力したとすれば、人工知能からもなんとなくの答えしか返ってきません。コンピュータ自体は、「ユーザーが抱えているこの課題を解決したい」といった欲望をもたないからです。
データがもつ意味に気づくためには、ユーザーのどのような課題を解決したいのかという欲望や命題を明確にもつ必要があります。そしてそのためにできることは、「ユーザーのニーズを理解すること」に尽きる。ユーザーのニーズを知った上でデータを眺めると、同じデータでも見え方や活かし方が変わってきます。

—— ユーザーのニーズをより理解するために、技術者は何ができるでしょうか。

西條 何はともあれ、「新しいことを試してみること」です。人工知能でサービスを改良して、その結果、ユーザーの行動を促したり、満足度を高めることができたのかをデータに基づいて確かめる。すると、ユーザーに関する洞察が深まりますし、仮にそのトライが「エラー」だったとしても、そこから次の打ち手が見えてきます。
もうひとつは、「ユーザーとリアルな接点を持つこと」。先ほどの「試してみる」では、自分が行った打ち手が正しかったのかをユーザーのリアクションから確かめることはできても、ユーザーが求める打ち手そのものはわかりません。ユーザーにとって良い打ち手を探るためには、直接関わりをもつのが一番。
私の場合、『ホットペッパービューティー』の女性ユーザーのニーズを理解するために、ネイルサロンを訪れ、ネイルを体験したこともありました。その際、ネイルにはどのような種類があるのか、女性はどのような基準でサロンを選ぶのか、などサロンの方とお話しします。そのようにユーザーと「壁打ち」をすることで、彼女たちが求めていることを知り、それを踏まえたアルゴリズムを構築できるようになるのです。
これはテクニックとも言えますが、ユーザーのことを「思いやる」という意味では、これからの技術者に求められるスタンスなのかもしれません。

「人が好き」であることは技術者の強みになる

—— ユーザーのことを「思いやる」スタンスというものは自分で育むことができるものでしょうか。

西條 どうでしょうか。私自身についてひとつだけ言えるのは、他の人に比べて、「人を好きになる能力が高い」ということです。「この人はこういう良いところがある」とか、「この人はこういうところは不得意だけど、そういうところも含めて好きだな」とか、とにかく人を好きになれるんです。
人のことが好きで、仲良くなりたいと思う。だから、せっかくなら自分のことも知ってほしい。だから、ユーザーと接点をもつことがとにかく楽しいと感じられるし、その人を喜ばせるためにもっと何かできることはないかと思いやれるようになっていった気がします。
コンピュータに向かってデータを入力して、人工知能にいろいろ教え込むのも楽しいですが、そういう仕事をしていればしているほど、ユーザーからのフィードバックを、もっとリアルに感じたいと思うようになるんです。

—— 人工知能技術の実用化について、今後の展望は。

西條 今のところ人工知能技術は「コストリダクション」、つまり、いかに既存のワークフローに仕方なく残っている「人の手」を取り除いて効率化を図るか、という点で活かされてきました。
今後は、先ほどの「思いやる」スタンスも活かして、サービスの「改善」を超える、「好き」になってもらうためのユーザー体験を、人工知能の技術を使って実現していきたいと考えています。



人工知能を開発することは、「子どもの教育」や「教科書の制作」に似ているといわれることもあります。それは、相手が求めているものは何か(適切なデータ)、自分が伝えたいことは何か(適切な要件定義)、という基本に立ち返りサービスを開発することが大切だからなのかもしれません。
人工知能開発を通して改めて大切なことに気づく、そのプロセスも含めて人工知能開発の醍醐味といえるのではないでしょうか。

西條 晃平

(UXデザイングループ)

1989年生まれ、2012年リクルート入社。『じゃらんゴルフ』の開発ディレクション及び開発を担当。その後新規事業を企画提案するプロダクト開発グループに異動。画像解析技術を使った新規案件を提案し、リクルート内でのプラットフォーム化を推進中。画像解析を利用し、サービスの非連続な成長/新しいUXの実現に取り組んでいる。

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